第683回・日本フィル東京定期演奏会

今月は土曜日に日本フィルの東京定期を聴いてきました。本来は金曜日の会員ですが、その日はサルビアホールのディオティマQと重なったために振り替えたため。金曜日と違ってマチネー公演で、サントリーホール界隈の風景も新鮮に映ります。
一方でお馴染みの顔が見えない分、多少のアウェイ感もありましたが・・・。

柴田南雄/コンソート・オブ・オーケストラ
R.シュトラウス/四つの最後の歌
     ~休憩~
エルガー/交響曲第1番
 指揮/山田和樹
 メゾ・ソプラノ/清水華澄
 コンサートマスター/扇谷泰朋
 フォアシュピーラー/千葉清加
 ソロ・チェロ/菊地知也

9月は同オケのシーズン開始月、指揮者は正指揮者の山田和樹です。近年9月の日フィルは山田と決まっているようで、プレトークでも自ら語っていましたから、多分来年も9月は山田担当なのでしょう。
他では7月が元正指揮者の広上、あとは首席インキネンと顧問ラザレフで年5回は埋まり、最も古い関係のコバケンさんが1回。東京定期は残る2回を純粋な客演指揮者が振るということで定着しています。今期の場合は、10月の鈴木秀美と12月の飯盛泰次郎がゲスト。

土曜定期ではプレトークがあるのが金曜日と異なる所ですが、山田は自分でトークを買って出るので、同じ内容で金曜日にも開催されたのでしょう。いつも「巻き」が入る山田節、今定期の隠れテーマは「彼岸」ということでした。
柴田は今年が生誕100年で没後20年の記念の年。シュトラウス作品もエルガー作品も、失われた者への思いが籠められているということで共通するというのが山田説。個人的には他にもあると思いましたが、それは後程。

幕開けの柴田作品は、山田/日フィルが11月に予定しているオール柴田コンサートのプレリュードとしての位置づけ。11月の演奏会は山田自身も自腹を切って開催するとのことで、その心意気にブラヴォ~を贈りましょう。私もチケット発売当日に一番で良席をゲットし、今から楽しみにしているコンサートでもあります。
思えば柴田南雄氏は、私がクラシック音楽を聴き出した当初から指南して頂いた(もちろん面識はありませんでしたが)碩学。氏の「西洋音楽の歴史」全4巻は未だに第一級の参考書ですし、NHKの現代の音楽、海外の音楽の解説を担当されたのも全て柴田氏。放送で触れられた貴重な情報は、今でも鮮明に思い出すことが出来ます。

コンソート・オブ・オーケストラはNHKの委嘱作ですが、自身でも述べておられるように、当時の現代音楽作曲語法を包括的に網羅したもの。恐らく氏自身の独創は無いと思われますが、どのテクニックも誰が何処で、どの作曲家が何という曲で用いたと指摘できるほどに「今」に通じていた作曲家・指導者でもありました。
私にとってもこれ等の技法は懐かしく、且つ現在でも新鮮で、柴田作品の多くが今尚未出版であることは日本楽壇の恥と言うべきです。柴田南雄氏については、11月の特別演奏会でまた触れることにしましょう。

続くシュトラウス。実は同じ作品を先月、ヴァイグレ指揮・へーヴァー独唱の読響定期で素晴らしい演奏に接したばかり。どうしてもそれと比較してしまうので分が悪いな、と正直考えていましたが、予想に反して(失礼ながら!)ヒケを取らないばかりか、時にそれを上回る素晴らしさに感動してしまいました。
例えば響きの柔らかさ、丁寧で遅めのテンポが大いに「寂寥感」を生んでいたことなどはライヴァル以上で、山田が意識していた「彼岸」の思いが良く伝わってきました。二人とも四つの最後の歌は初めて演奏するとのことでしたが、初回でこのレヴェルの演奏を成し遂げる辺りは流石と言うべきでしょう。

後半のエルガーもほぼ同じ。山田は作品を良く理解しており、隠れエルガリアンの私も大いに満足できる演奏。そもそもこの作品を日本初演したのは日本フィル(ロッホラン指揮)で、当時私も若く、一向にエルガーを取り上げない日本のオーケストラ界、レコードも出さない音楽業界に対して怒りすら感じていました。
それが、逆に英国から音盤やスコアを個人輸入することにも繋がったのですが・・・。日本初演の折は、子育て真っ最中のこととて演奏会は夢のまた夢。初演を聴けなかったことに悔し涙を流したものでしたっけ。

その後人々の意識も変わり、尾高忠明、大友直人、広上淳一など英国音楽を愛する指揮者たちのお陰でエルガーもすっかり日本に定着。ここにまた新たに山田和樹という良き理解者が得られたことを素直に喜びたいと思います。
余り知られていないことかも知れませんが、無名のエルガーを世界に、特にヨーロッパ大陸に知らしめたのは他ならぬリヒャルト・シュトラウス。二人は友人であり続け、お互いに深く尊敬する間柄でもありました。プレトークで紹介されていた弦の後ろのパートが演奏するというアイディアは、シュトラウスがツァラトゥストラで試みていた、という事実も二人の関係を表す一例でしょう。
そんなエピソードを紹介してくれたのも柴田南雄氏。実はこのコンサート、私にとっては3人の関係こそ隠れテーマだったのです。

 

 

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